2018年1月15日 (月)

争点・政策の検証が弱い17年衆院選報道-上智大チーム分析

 2018115日  上出 義樹

 
 昨年
10月に行われた衆議院選の新聞・テレビ報道の特徴を、上智大学文学部新聞学科の「選挙とメディア」研究会(代表・音好宏学科長)が調査・分析した。既に、朝日新聞の112日付朝刊メディア欄などで調査結果の概要が報じられているが、本稿では、朝日の記事が触れていない新聞報道を中心に、上智大チームの担当教授のコメントも紹介しながら、分析内容の要点を見てみたい。

 

在京の主要な新聞・テレビを対象に調査

 この調査は、衆議院解散が報じられた昨年917日から、投開票翌日の1023日までの37日間にわたり、東京で購読・視聴できる新聞6紙と、地上波テレビ6局の関連報道を対象に行った。新聞は、選挙関連記事の総本数などの量的分析と併せ、1面の見出しや社説の内容、各紙の議題設定の特徴などを分析。一方、テレビは、ニュース・報道系と情報・ワイドショー系番組について選挙関連の放送時間や番組内容の集計、分析を行った。

改憲や北朝鮮問題などの重視は6紙に共通

まず、新聞報道では量的分析の結果、各紙が主要な争点として重視したテーマは、論調の違いや賛否は別にして、「憲法改正」「北朝鮮」「安全保障」で、どの新聞でも上位5位に入っている。改憲問題は朝日、毎日、東京が争点の第1位で、読売は第4位、日経と産経がともに2位だった。「北朝鮮」と「安全保障」は、読売と産経がそれぞれ13位内、朝日と東京は45位などと、濃淡はあるが、安倍晋三首相が北朝鮮への「圧力」路線の賛否を解散理由に挙げたことを反映して上位に入ったと、調査チームは分析している。

 「森友・加計」学園問題は各紙の扱いが二分

一方、「森友・加計」学園問題は、朝日、毎日、東京が争点順位の2位または3位だったのに対し、読売、日経、産経では上位5項目に入っていない。同問題で6紙の扱いが二分したことも今衆院選報道の特徴と言える。 安倍首相が「北朝鮮」や「アベノミクス」などを強調したのに対し、野党側は「森友・加計」で攻め、改憲の危険性を訴えた。この図式が報道の議題設定にも繋がった形だが、各紙とも争点の取り上げ方が総花的だった。 

 

国民への責任果たせぬ総花的な紙面

新聞報道の分析を担当した小此木潔教授は、総花的な紙面について「選挙報道はこれまでも議席数や当落、政党間の勝ち負けといったことに焦点が当たりすぎ、政策評価や判断に関して有権者に豊富な判断材料を提供するという使命を果たせないできた。今回の衆院選報道も、残念ながらそういう結果であった」とコメント。「とくに、各紙が争点報道では改憲問題が重要であると書いておきながら、どういう改憲で何が変わり得るのか、についてシミュレーションや専門家のインタビューすらほとんど行わなかったのは、情けない。北朝鮮の核・ミサイル問題も、外交による解決には何が必要か、もしも戦争になったらどんな被害が出るのか、について冷静に考えるような記事をほとんど書いていない。これでは危機感をあおる勢力に加担するようなもので、国民に対する責任を果たせていないと言わざるを得ない」と指摘する。

 選挙報道が増えたテレビも検証番組は減少

 他方、テレビの選挙報道はどうだったか。衆院選関連の放送時間を投票日前日までの4週分について2014年の前回衆院選と比較すると、今回が計298時間で、前回の3倍近くに増え、173時間放送した情報・ワイドショー系番組に限ると、前回の8倍強にもなる。

 小池百合子・東京都知事の新党立ち上げのほか、国会議員の暴言やスキャンダルなどもあって、ワイドショーが「劇場化」を後押ししたが、争点について現場の実態を取材し問題提起をする報道は全体の2%しかなく、前回衆院選の19%から大きく減少した。テレビ報道の調査・分析を担当した水島宏明教授は、争点を自ら検証するテレビ番組の激減に、「深刻な危機感を持たざるをえない」と、分析結果を受け止めている。

かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2018年1月10日 (水)

米軍ヘリの不時着を「緊急着陸」と報じるNHKの「忖度」体質

 2018110日  上出 義樹

 

年明け間もないこの6日と8日、沖縄で米軍ヘリが相次ぎ不時着陸。このニュースを伝えたNHKは、全国紙が見出しに取った「不時着」の言葉を使わず、「緊急着陸」と報じている。事態を穏便に処理したい日米両政府の立場を「忖度」(そんたく)し、事故やトラブルのイメージを薄めようとのNHKの狙いが読み取れる。

全国紙は5紙とも「不時着」と伝える

米軍ヘリは、6日がうるま市伊計島の砂浜、8日が読谷村(よみたんそん)のゴミ処分場に不時着した。幸いけが人はいなかったが、それぞれ近くに住宅があり、住民からは「ぞっとする」などの声が聞かれた。安倍政権寄りとされる読売や産経を含め全国紙の9日付朝刊は5紙とも「不時着」と報じているが、NHK8日夜7時と9時のテレビニュースを見る限り、「不時着」ではなく、「緊急着陸」の言葉を使っている。なぜなのか。

米軍側の「予防着陸」の説明にNHKが配慮か

実は、朝日新聞によると、6日と8日のいずれも、不時着した米軍ヘリの乗員は、事故を避けるための「予防着陸」配慮しだったと、説明している。普通はそれを「不時着」と呼ぶのだが、この「予防着陸」の言葉に配慮し、NHKが「緊急着陸」に置き換えたと考えると、話が見えてくる。

米軍機の事故・トラブル続発と飛行再開に県民の怒り広がる

沖縄では昨年も、体育の授業中だった小学校の校庭に米軍ヘリの窓枠が落下するなど、米軍機による事故やトラブルが続発。しかし、米軍はすぐに飛行を再開し、日本政府がノーと言えないことに、県民の怒りが広がっている。そのホコ先が次はNHKの「忖度」体質に向かうかもしれない

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

 

2017年12月27日 (水)

2017年は政治もメディアもイエスマンが跋扈(ばっこ)

 20171227日  上出 義樹

 

 2017年の最後に、この1年を自分なりにざっくりと振り返ってみたい。拙稿を読み直してあらためて感じるのは、政治でもメディアの世界でも、「イエスマン」が以前にも増して跋扈(ばっこ)、つまり、はびこっていることである。

身勝手なトランプ大統領に皮肉も言えない安倍首相や閣僚

「米国第一」を掲げ、人権や民主主義、環境保護などに平気で背を向けて世界を振り回す身勝手で横暴なトランプ大統領に対し、私の知る限り、安倍晋三首相や閣僚らから、欧州の政府首脳が語るような批判を全く聞いたことがない。なぜ皮肉の一つも発信できないのか。親分と子分の関係でもある日米安保条約の本質そのままに、まさに「対米従属」としか言いようがない異常な気の使い方だ。

 

人命軽視の米軍ヘリ運行再開を徹底追及したのは結局、沖縄の地元紙

一方、日本のメディアは、トランプ氏の理不尽な言動にはケースバイケースで批判もするが、米政府にノーと言えない安倍政権に真正面から切り込む報道は少ない。

例えば、沖縄の普天間基地周辺にある小学校で1213日、子どもたちが体育の授業をしていた校庭に米軍ヘリの窓枠が落下した。子たちの命が奪われたかもしれない重大事故にもかかわらず、わずか6日後に米軍ヘリの運行が再開。日本政府はそれを容認したが、人命軽視の無責任な日米両政府の対応を徹底的に追及した新聞は、沖縄の地元紙だけ。それなりに厳しい批判を展開した全国紙もあったが、その場限りの報道で終わってしまった。

一方、トランプ政治の危うさについては、読売や朝日がそれぞれ12月下旬の社説で取り上げている。しかし、読売はトランプ氏に従順な安倍首相を一言も批判せず、朝日は、「日本の役割」として、米国に「国際協調の今日的な意義をしっかりと強く説くこと」などと書いてはいるが、いかにも付け足しのような型どおりの言葉で、読者の心には響かない。

 

望月衣塑子さんのような勇気ある記者も登場

残念ながらこの1年は結局、流行語大賞にも選ばれた「忖度」が、首相官邸の「ご意向」を気にかける官僚たちや保守系メディアを中心に跋扈。私が参加する閣僚会見なども相変わらずお行儀の良い質問がほとんどだった。このように政界もメディアも「イエスマン」だらけの中で、菅義偉官房長官の会見に今年6月から参戦し、官邸や記者クラブの反発を受けながら、鋭い質問をぶつけている東京新聞社会部の望月衣塑子(いそこ)さんのような勇気ある記者が登場したことも付け加えておきたい。


(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年12月18日 (月)

「シャンシャン会見」の常態化はメディアの自殺行為

                                 20171218 日  上出 義樹

 

 鋭い質問せずお行儀の良い日本の記者たち

菅義偉官房長官の毎朝夕の会見に今年6月、彗星のごとく現れ、鋭い質問を連発してそれまで10分程度で終わっていた会見の空気を一変させた東京新聞社会部の望月衣塑子(いそこ)記者らをパネラーとする世界人権デーの集会が1214日、千代田区の専修大学で開かれた。望月記者は、初体験した同長官会見を自著で「シャンシャン会見」と、なかなかうまい表現をしている。フリー記者として現在私が参加するいくつかの閣僚会見も、厳しい質問が少ない「シャンシャン会見」ばかり。そんなお行儀の良い記者会見の常態化は、閣僚会見などがネット中継されることも多い中で、メディアにとって、読者・視聴者の不信を増殖する自殺行為にも等しい。

 

官房長官会見の馴れ合いムードに風穴を開けた望月記者

「今問われるメディアの独立と報道の自由」とタイトルが付いた14日の集会は、首相官邸や保守系メディア、ネット右翼などからさまざまな圧力や嫌がらせ受けている望月記者を、彼女に共感するする市民や記者仲間らで励まそうという企画でもある。

同記者は当初、加計問題を中心に1日最高23問の質問をぶつけ、他社の反発を買ったこともあったが、同長官と記者クラブが馴れ合う「シャンシャン会見」に風穴を開けた意義は大きい。ただ、現在は同長官からなかなか指名されない「質問封じ」状態が続いている。

 

権力による「質問封じ」にも危機感薄いマスコミ

一方、私が参加する外務、経産、総務の3閣僚の定例会見は、23年前までは自由に質問できたのに、現在は質問の事前通告が必要で、とくにフリー記者には厳しい。

こうした権力による「質問封じ」の問題は1030日付の拙稿でも取り上げているが、マスコミの記者たちには驚くほど危機感が薄い。

 


(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

 

2017年12月11日 (月)

トランプ氏にノーと言えない日本政府と及び腰の報道

                      
                      
20171211日  上出 義樹

 

世界の反発を買ったエルサレム「首都」宣言

「何でもあり」のトランプ米大統領だが、エルサレムをイスラエルの「首都」と一方的に宣言したニュースには、世界が驚かされた。国連安保理事会は9日(日本時間)、緊急会合を開催。各国の代表から米国への厳しい批判や反対論が飛び交った。欧州諸国がストレートに「ノー」を表明したのに対し、日本は盟主の米国に配慮。閣議後の閣僚会見などでも、中東情勢への「懸念」を示すのが精いっぱいだった。そんな安倍政権の対応を批判する報道も、歯切れが悪かった。

 

盟主には「反対」できない対米追随外交

報道によると、安保理事会で日本の別所浩郎国連大使は、「中東和平の環境悪化が心配」と述べると同時に、トランプ氏が中東和平に強く関与したことへの謝意を示すなど、対米追随の姿勢を強くにじませた。8日の閣議後会見でも河野太郎外相や世耕弘成経産相から中東情勢の悪化や日本への影響を危惧する発言は聞かれたが、どの閣僚もトランプ氏を直接批判する言葉は口にしていない。

 

イエスマンの安倍政権を厳しく批判しないメディア

一方、8日の在京各紙は、米国の今回の「首都」宣言を、「無分別な決定」(朝日・社説)、「無謀な判断」(産経・主張)などと、こぞって批判。しかし、その米政府に安倍政権が「ノー」と言えないことを厳しく指摘する記事は、ほとんど見当たらない。それを、ちゃんと報じたのは、私の知る限りTBS10日のニュース番組「サンデーモーニング」くらいだろうか。いつもの繰り返しになるが、日本のメディアは、報道の自己規制が過ぎる。

 

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年11月20日 (月)

日米首脳会談巡る日本政府の『ウソ』が露呈した米国大使の会見

  20171120  上出 義樹

 

日米FTA(自由貿易協定)は本当は議論されていた?

トランプ米大統領がご執心ながら日本には不利な日米自由貿易協定(FTA)は、先の日米首脳会談で安倍晋三首相と議論していないことになっていた。ところが、この17日に日本記者クラブで会見したハガティ米国大使は、FTAについても議題に上がったことを明かした上で、「日米FTAが実現する可能性は非常に高い」と言い切ったのだ。安倍政権はFTAでもトランプ氏の言いなりになってしまうのか。

 

ハガティ米国大使が会見で首脳会談の内容を明かす

ハガティ大使は記者会見で、116日の日米首脳会談の内容にかなり踏み込んで言及。米国の貿易赤字に対処するため「日米FTAを含むあらゆる選択肢について議論した」と述べ、「日本側の懸念は承知している」「(締結の)時期は設定されていない」としながらも、FTA締結の可能性が高いことを強調した。

 

2国間のFTATPP以上に米国に有利で日本に不利

日米が主導したTPP(環太平洋経済連携協定)を脱退したトランプ政権は、関税などで米国がより有利になるとされる2国間のFTAの締結を目指しているが、安倍政権は、今回の日米首脳会談でFTAを巡る議論はなかったと説明してきた。

 

国民欺く安倍政権を厳しく追及しない及び腰の報道

しかし、同大使の会見内容が事実なら政府は国民やメディアに「ウソ」をついてきたことになる。今回、日本記者クラブで初めて会見した就任間もないハガティ大使がわざわざ事実を捏造するとは、常識的に考え難いが、不思議なのは。この大使発言を新聞やテレビがあまり報じていないことだ。比較的扱いが良かった朝日でも18日付朝刊4面に2段見出しの地味な記事だったが、朝日はまだましな方。「FTA隠し」を批判しなかった他の保守系大手メディアなど、マスコミ全体の問題意識の欠如と、いつもながらの報道の自己規制を痛感せざるを得ない。

 

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年11月 8日 (水)

対米従属の「兵器大量購入」に切り込まない翼賛報道

 2017118  上出 義樹

 

トランプ大統領が日米首脳会談であからさまな対日要求

出来レースの観があった6日の日米首脳会談で、ほとんど唯一、耳目をひいたと言えるのは、初来日のトランプ大統領の口から共同記者会見の場で飛び出した「米国の兵器を大量に追加購入せよ」とのあからさまな対日要求であろう。これに笑顔であっさりイエスと、応じる安倍晋三首相。日米同盟の本質である「対米従属」をこれほどわかりやすく浮かび上がらせたシーンは、過去の首脳会談でも筆者にはあまり記憶にない。

1面トップで取り上げた在京紙は東京新聞だけ

ところが、在京各紙の翌7日付朝刊の1面トップを見ると、6紙のうち5紙までが「日米、北朝鮮に『最大圧力』」(朝日)など、北朝鮮に最大限の圧力をかけることで両首脳が一致したという想定どおりの内容。武器の大量購入を1面トップで批判的に取り上げたのは「米の要求 丸のみに危うさ」の見出しを掲げた東京新聞だけだった。

 

読売、産経、NHKなどは首脳会談に礼賛一色

朝日や毎日などは社説やサイド記事で、武器の大量購入などにも批判的に言及しているが、案の定、読売と産経は「強固な同盟を対『北』で示した」(読売7日付社説)など、今回の日米首脳会談には、NHK同様に礼賛一色の翼賛報道。それなりに両首脳への辛口コメントもあったテレビ朝日やTBSなど民放を含めマスコミ全体としても、安倍政権下で深化する「対米従属」の核心に鋭く切り込んでいるとは言い難い。

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年11月 6日 (月)

マスコミの無節操さが露わなトランプ狂騒曲

 2017116   上出 義樹

 

「権力の監視」より長女イバンカ氏やゴルフ外交のPR役に

ドナルド・トランプ米大統領の初来日を報じる日本のマスコミ、とくにテレビ各社のはしゃぎようは、いつものことながら権力への無節操さを露わにしている。安倍晋三首相に縁の深い経営者らが絡む森友・加計両学園の問題や、米国の大統領にあるまじきトランプ氏の数々の差別的な言動などはどこかへすっかり置き忘れ、トランプ氏の長女イバンカ補佐官のファッションや両首脳のゴルフのプレーぶり、晩さん会のメニューなど、5日までの報道は女性週刊誌さながらの内容。「権力の監視」はお休みなのか。

 

視聴率競争を強いられるテレビ各社からは「首相官邸の思う壺」の声も

日ごろは、安倍政権やトランプ氏に批判的なニュースもしばしば流す在京民放キー局の記者は「テレビは結局、視聴率が勝負。モデル出身のイバンカさんやメラニア夫人は絵になるので、他社と同じように追いかけざるを得ない。情けない話ですが、首相官邸の思う壺です」と、内情を打ち明ける。

 

トランプ・ファミリーの「政治の私物化」には批判のコメントなし

大統領より一足早く2日に来日し4日に帰国したイバンカ補佐官は、安倍首相をはじめ主要閣僚が総出で歓待するなど、異例のもてなしを受けた。しかし、私が知る限り、これを大きく報じたNHKや民放各局から、トランプ・ファミリーの「政治の私物化」などを揶揄するようなコメントはついに聞かれなかった。

 いよいよ6日は日米首脳会談が開かれるが、「トランプ狂騒曲」の続きはご免蒙りたい。

 

 

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年10月30日 (月)

政治記者が明かす官房長官会見の「質問封じ」

                          20171030日  上出 義樹

 


 全国紙の記者が長官会見の舞台裏を報告

日本マス・コミュニケーション学会の秋季研究発表会が1028日、成城大学で開かれ、私が問題提起者になったワークショップ(分科会)「安倍政権下で強まる中央省庁の取材規制」で、ゲスト参加した全国紙の政治部記者が、菅義偉官房長官会見の実態について報告。じわじわ強まる「質問封じ」の舞台裏などをリアルに語ってくれた。

 

馴れ合いの空気を鋭い追及で一変させた女性記者

毎日朝夕2回、首相官邸で開かれる菅長官の定例記者会見は、お行儀のよい官邸担当記者たちが長官を厳しく追及せず、政府に都合の悪い質問には菅長官が木で鼻を括ったような対応でお茶を濁すスタイルが定番になっていた。しかし、この6月、東京新聞社会部の望月衣塑子(いそこ)記者が同会見に参加し、加計学園問題などで鋭い質問を繰り返すようになって空気が一変したことは、ネットメディアのニュースを含めよく知られている。

 

首相官邸はうるさ型の記者の質問を事実上制約

今回、ワークショップで報告した全国紙記者は、政治部所属ながら首相官邸の担当ではなく望月記者同様に、官邸スタッフにとってはいわば「部外者」。望月記者の質問に、「未確定な事実や単なる推測に基づく」などとして9月初めに文書で異例の抗議をした首相官邸は、その後も「部外者」たちに対しあの手この手で「質問封じ」を続け、「私や望月さんに何度も質問させないように公務多忙を理由に会見を早めに打ち切ったりする」と、全国紙記者は会見の内情を明かす。

 

日本のマスメディアの根深い翼賛体質

なんと、こうした一部記者への差別的な扱いを、本来の主役である官邸担当記者たちは「内々で官邸と合意している」というのだ。これでは「第2の望月記者」は生まれ難い。「親安倍」メディアによる望月記者攻撃を含め、日本のメディアの翼賛体質は、根が深い。

フリーランスの記者が金曜日しか官房長官会見への参加を許されていないなかで、国民の知る権利を担う新聞やテレビは、うるさ型の記者の「排除」ではなく、国民への説明責任がある政府首脳と体を張って真剣勝負し、徹底追及することはできるのか。官邸担当記者の本気度が問われている。

 

(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

2017年9月29日 (金)

プロ野球に見る国歌斉唱とマスコミの沈黙

2017929日  上出 義樹

 

内心の自由に関わる国旗・国歌問題

米国のプロスポーツ界ではトランプ大統領の人種差別的な言動に対し、アメリカンフットボールの黒人選手らが試合前の国歌斉唱に抗議する動きが広がっている。米国のようにトラブルが起きているわけではないが、日本のプロ野球をテレビ観戦していると、試合前に両軍選手が整列し、国歌が流れる光景がやたら多い。当然のように観客にも起立を促している。公の場での国歌斉唱は、個人の内心の自由に関わる大きな問題のはずだが、マスコミは卒業式・入学式以外で、国旗・国歌問題をほとんど報じることがない。

 

パリーグは毎試合、セリーグはカード初戦に君が代

複数の球団によると、セリーグは2014年以後、3連戦あるいは2連戦のカード初戦、パリーグは原則として毎試合君が代が流れ、有名歌手が独唱する場合もある。

 

 昔はスポーツで君が代が斉唱・演奏される場面と言えば、国際試合を除くと大相撲の千秋楽くらいだったが、1999年の国旗国歌法の制定で徐々に増加。プロ野球の場合は、安倍晋三政権に媚を売るようなタイミングで国歌斉唱のセレモニーが定着した観を否めない。

 

国旗・国歌問題に感度が鈍いメディア

国旗国歌法の制定に際し、当時の小渕恵三首相は国会で、国旗や国歌が国民に「義務づけ」するものではないとの趣旨の答弁をしている。ところが、実際には卒業式で国歌斉唱時に起立をしない教員が処分されるなど、「強制」がまかり通っている。

 

 アジアの人々から日本の侵略戦争の象徴ともされる日の丸や、天皇を賛美する歌詞が付いた君が代に抵抗感を持つ国民は決して少なくない。その点で、国旗・国歌は極めて政治的な意味合いが強い。そんな国旗国歌問題に本来、メディはもっと敏感でなければならないはずだ。

 

中央省庁の記者会見場にも昔はなかった日の丸が鎮座

同法の施行直後には、閣僚記者会見の会場への国旗持ち込みに体を張って反対した記者もいた。しかし、自省を込めての報告になるが、今は中央省庁の記者会見会場に当たり前のように日の丸の旗が鎮座し、記者たちから抗議の声が聞かれることはない。

 

 本題に戻ると、プロ野球でなぜ、頻繁に国歌を流す必要があるのか。それを問う記事を見たことがない。当たり前の「日常風景」にしてしまってよいのだろうか。

 

 

 


(かみで・よしき)北海道新聞社で編集委員など担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。

«なし崩しの「空襲警報」とマスコミの追及不足