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2015年11月19日 (木)

原告席から見た秘密保護法違憲訴訟の判決とその内幕

 原告席から見た秘密保護法違憲訴訟の判決とその内幕                            

20151120日   上出 義樹 

国民各層から反対の声が広がる中で2013年末に国会で強行採決され、2014年末に施行された特定秘密保護法は憲法違反の法律であるとして、フリーランスの記者・編集者らが、同法の無効確認などを求めていた訴訟の判決が1118日、東京地裁(谷口豊裁判長)で言い渡された。「具体的な紛争が起きていない」ことなどを理由に、私を含む42人の原告の訴えは残念ながら棄却されたが、一審は通過点であり、当然ながら原告団は東京高裁への控訴を決めている。こうした本筋の流れとは別に、判決公判では法廷写真の撮影不許可をめぐる裁判所と原告団の「場外」での重要なやり取りがあった。新聞やテレビが伝えないこの撮影問題を中心に、原告席から見た今回の違憲訴訟の内幕を報告する。

 法廷写真の撮影不許可をめぐり裁判長と原告団が異例の「場外」戦

 判決そのものからは外れるが、通常の裁判では異例のケースと聞いている「場外」戦の話から始めたい。本訴訟は20146月の初公判以来、計8回の口頭弁論が行われ、判決の言い渡しを迎えた。判決公判を前にフォトジャーナリストら数人の原告が法廷写真撮影の許可を谷口裁判長に申請したが、いずれも不許可になった。ところが、司法記者クラブには、重要な裁判などでよく見かける開廷前のテレビの代表撮影を認めていることがわかった。

 そこで、原告団が裁判所側に撮影不許可の理由の開示を求めたところ、原告の代理人である弁護士に谷口裁判長から閉廷後、不許可の理由を直接、原告団に口頭で説明する旨の返答があった。私にとっては自分の人生で初めて原告として参加する裁判だが、裁判経験の豊富な原告仲間によると、裁判長が撮影不許可の理由などを原告に直接説明するのは極めて珍しく、「裁判史上初めてかもしれないよ」と言う原告もいた。見せかけだけかもしれないが、フリーのジャーナリストらが起こした裁判であることに一定の配慮を見せた裁判長の対応とも受け取れた。

 開廷直前の原告の「抗議」発言などで不許可理由は開示されず

 ただ、谷口裁判長からのこの提案に対し、原告団からは「裁判所との裏取引と誤解されないように傍聴人が入場した後、開廷前に裁判長に何らかの形で抗議すべきだ」との強い意見があった。結局、判決の言い渡しでは、全国紙のOBが原告団を代表する形で、裁判長の入廷直後、柔らかい口調ながら撮影不許可の理由を問い、異議を唱えた。これに対し、谷口裁判長は、この発言を制止しつつ、閉廷後に説明の機会を設けると応じた。さらに、裁判所の職員が2分間の開廷前のテレビ撮影が始まることを告げると、原告数人が「われわれの写真撮影の不許可に抗議して、テレビ撮影の間、退廷します」と宣言し、2分間だけ原告席を離れた。

 谷口裁判長は主文と判決理由を述べいったん閉廷した後、当日出廷した30人の原告が待つ法廷に戻り、「説明」を始めたが、残念ながら撮影不許可の理由は語らなかった。ただ、理由を語らない理由については、開廷前の抗議や一部原告の退廷など一連の「不規則」発言(行動)があったことを指摘し、「私が願っていた信頼関係が損なわれた」と説明した。撮影不許可の理由を裁判長がどのように説明するか、是非とも聞きたかったが、裁判長が原告たちとこうしたやり取りを行うこと自体が極めて異例のことらしい。

 司法と既存メディアとの共生の関係を示したテレビ撮影の許可

 もっとも、この「場外」戦への評価は原告の間でも分かれる。開廷前の「抗議」はせずに撮影不許可の理由を裁判長に語らせた方が意義が大きかったとする意見と、フリーランスの矜持としても、満席となった約100人の傍聴人の前で抗議の意思を示すのは当然だったとの主張である。私にはどちらも正しいように感じられるが、谷口裁判長に対しても、「われわれフリーランスにそれなりの『誠意』を見せようとしていたのでないか」と一定の評価する原告もいる。

 ただ、原告団は裁判所との「信頼関係」を築くために訴訟を起こしたのではない。はっきりわかったことは、政府や警察ばかりでなく司法もまた、記者クラブを介して既存メディアと共存、共生の関係にあり、一部の原告から評価されている谷口裁判長の場合でも、結局、フリーランスは排除されるという根深い構図が見られることである。

 相次ぐ「悪法」にオールメディアの共同作業を

 書く順番が逆になったが、判決についても原告の間では、谷口裁判長が憲法判断を避けたことに対して批判的な見方と同時に、「秘密保護法を合憲とされるような最悪の結果は免れることができた」との受け止め方もある。結局、特定秘密保護法の実態は施行から1年近くたった今もはっきりわからず、「フリーランスが直接損害を受けているという証拠はない」との判決理由にもつながっている。

 裁判はこれからも続き、個性的なフリーランスの諸氏からはいろいろ学ぶことが多い。安全保障法制の先駆けとして特定秘密保護法がつくられ、さらに今度は、先日パリで起きたテロを口実に共謀罪も顔をちらつかせている。既存メディアもフリーランスも一緒になってこれらの「悪法」に立ち向かうオールメディアの共同作業の大切さをあらためて感じている。

 (かみで・よしき)北海道新聞社で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士後期課程(新聞学専攻)在学中。

 

 

 

 

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