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2016年2月 3日 (水)

不思議な内閣支持率上昇とおざなりな甘利氏疑惑報道

 201623  上出 義樹


 問われる新聞やテレビの本気度

口利き疑惑の渦中の人だった甘利明衆議院議員が経済再生相を辞任した直後の1月末に相次ぎ行われた各メディアの世論調査で、いずれも内閣支持率が上昇している。第二次安倍晋三政権発足以降、不祥事で辞任した小渕優子氏ら他の3人の閣僚の場合は、どのケースも直後の世論調査で内閣支持率が下がっている。今回の甘利氏の疑惑は、過去の辞職閣僚3人に比べはるかに悪影響が大きいはずなのになぜ、内閣支持率が上がっているのか。いくつか理由が考えられる中で、内閣支持率の背景に見えるのは、安倍政権の巧妙なマスコミ対策のもとで金縛りになった大手メディアの萎縮ぶりである。その証拠に、甘利氏の口利き疑惑が「政治とカネ」をめぐる重大かつ典型的な事例であるにもかかわらず、それを徹底検証する連載記事は全く掲載されていない。安倍政治に批判的な新聞やテレビ局を含め、甘利問題に切り込む本気度や覚悟が見られないのである。

 

これまでの閣僚辞任では内閣支持率が低下

甘利氏の辞任を受けた世論調査はいくつかのメディアが実施しているが、たとえば、13031日に行った読売、毎日の両紙の電話調査の結果を見てみよう。読売の調査では、甘利氏の辞任を「当然」と思う人が70%に上る一方、安倍首相の対応を「適切」とした人は57%で過半数を上回った。内閣支持率は1月上旬の前回調査の54%から56%に増えた。

 毎日の調査では甘利氏の説明を「不十分」とする回答が67%に上ったが、首相の任命責任は「重くない」との回答が46%で、「重い」の42%より多かった。内閣支持率は51%で、昨年12月の前回調査の43%から一気に8ポイント上昇。20143月の調査以来の50%超えとなった。ほぼ同じ時期に行われた共同通信やテレビ朝日などの世論調査でもほぼ同じ傾向を示し、内閣支持率はいずれも前回調査より上昇している。

一方、読売の過去の世論調査を見ると、同じ閣僚辞任後の調査でも、201410月の小渕優子・経済産業相と松島みどり法相のダブル辞任の際は内閣支持率が62 %から53%に急落し、20152月の西川公也農水相の辞任後は58%から55%に下がっている。

 

読売は口利き疑惑を棚上げし安倍政権にエール

なぜ、甘利氏の辞任では内閣支持率が逆にアップしたのか。毎日は21日付朝刊の記事でその理由について、「安全保障関連法への世論の批判が薄れたことや、外交面での実績(主に昨年末の日韓外相会談による慰安婦問題の合意)などがむしろ数字(支持率)を押し上げたとみられる」と簡単に触れているが、読売は2日付朝刊でずばり、「安倍内閣高支持率の理由」とのタイトルを付けた大型解説を載せている。「解説」とは言っても、安倍政権を後押しする読売らしいあからさまなヨイショ記事。「『決める政治』 危機にも強く」との主見出しが示すように、安倍首相らの政権運営をほめちぎっている。

「高支持率を維持している理由の一つは『ダメージコントロール』の巧みさだ」、「週刊文春で疑惑を報じられた1週間後でのスピード辞任が、政権批判の広がりを食い止めた形だ。疑惑の告発に至る経緯に不自然な点が見られたこともあり、支持率低下にはつながらなかったようだ」などと、甘利氏の疑惑や責任は完全に棚上げし、「支持率が急落しても持ち直す『復元力』も安倍内閣の特徴だ」と、同政権にエールを送っている。検察の捜査を含め、口利き疑惑の解明が始まったばかりなのに、読売は早くも「甘利問題はもうこれでおしまい」と幕引きを促しているかのような記事である。これでは、ジャーナリズムが担う「権力監視」の役割など果たせるはずがない。

 

「甘利氏はもともと金権体質」との指摘も

政界に太いパイプを持つ政治ジャーナリストの一人は、「TPPなどで脚光を浴びた政治家であるにせよ、みんな甘利氏を美化し過ぎ」と語り、もともと父親(故・甘利正衆議院議員)譲りの金権的な体質があることを指摘する。調べてみると確かに、公になっているものだけでも2013年と2014年に、政府の補助金をもらっている企業から少額ながら違法な献金を受けるなど、いくつかの不祥事を起こしている。

そんな甘利氏の口利き疑惑に対し、ホコ先が鈍いのは、安倍政権寄りとされる読売や産経新聞ばかりでない。安保法制などに対しては批判的な紙面を展開した朝日、毎日、東京を含め在京各紙は、企業献金の是非や口利きの実態など「政治とカネ」の問題を徹底検証するような連載記事を掲載していない。朝日は、甘利事務所だけでなく、国会議員の事務所では「口利き」が日常茶飯事になっていることを130日付朝刊で報じているが、単発の記事で終わっている。私の知る限り、甘利氏の口利き疑惑で連載記事を載せたのは政党機関紙の「しんぶん赤旗」だけである。

 

強まるアメとムチのマスコミ対策

安倍首相とマスコミ各社幹部らとの会食が今年に入ってますます増えていることが問題になっている。その一方、安倍政権から不興を買っていたテレビのニュースキャスターが今春までにすべて交代することが各局から発表されるなど、同政権によるメディアの懐柔と威圧がさらに強まる気配を見せている。メディア側から見れば政権への擦り寄りと萎縮であり、とくにテレビ局からは「放送の許認可権を持つ政府に逆らい続けるのは正直難しい」と、幹部らの弱気な言葉も聞かれる。

検証するのは難しいが、安倍政権が着々と布石を打ってきたアメとムチのマスコミ対策が、内閣支持率アップにつながっているのだとしても、残念ながらメディア自らがそれを伝えることはないだろう。嘆かわしい話である。

 


(かみで・よしき)北海道新聞社で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士後期課程(新聞学専攻)在学中。

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