3・11事故の究明と新基準にノーを突き付けた勇気ある司法判断
2016年3月11日 上出 義樹
大津地裁が高浜原発の運転を差し止め
大津地裁(山本善彦裁判長)は3月9日、再稼働して間もない関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めの仮処分を決定した。ちょうど5年前の2011年3月11日に起きた東京電力福島原発事故の原因究明が「道半ば」であり、事故後に発足した原子力規制委員会や新安全基準にも「非常に不安を覚える」と断じたのである。
この決定に対し関電は「極めて遺憾」として取り消しを求める方針を示し、政府も原発再稼働を引き続き推進する考えだが、各メディアの調査などでは原発の再稼働に批判的な世論が一貫して多数を占めている。その点で、大津地裁の仮処分決定は、3・11事故以来、原発に不安を抱く国民や、運転差し止めの訴訟を起こす関係住民の目線に沿った勇気ある司法判断と言えよう。
原発に不安を抱く世論を反映
同原発をめぐっては、再稼働前の昨年4月にも福井地裁が運転差し止めの仮処分を決定したが、同年12月、同地裁の別の裁判官により決定が取り消されている。三権分立と言われながら、現実には最高裁判事の人事権を持つ政府の意向が司法にも微妙に影響を与えており、原発関連や憲法解釈をめぐる訴訟などでは政府寄りの司法判断が圧倒的に多い。
そんな中で、昨年4月の福井地裁に続き、再び運転差し止めの決定が下された背景には、原発再稼働に反対する根強い世論が読み取れる。とくに、福島原発事故の原因が未解明なことや、「世界最高水準の厳しさ」として、政府が原発再稼働の根拠とする原子力規制委員会の新しい規制基準そのものに疑義を呈している点が注目される。
政府の意向を忖度し再稼働を順次認める原子力規制委員会
現在までに11社から16原発26基の再稼働が申請されているが、田中俊一委員長の会見に参加するなど原子力規制委を自ら取材する限り、大筋では政府の意向を忖度(そんたく)して遅かれ早かれ順次、再稼働にゴーサインを出すあ姿勢が見て取れる。それを支えているのが、福島原発事故発生時の規制機関だった悪名高い原子力安全・保安院だ出身の官僚や技術スタッフたちだが、旧保安院の所業の検証に関してはマスコミ各社ともほとんど切り込むことはない。
(かみで・よしき)北海道新聞社で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士後期課程(新聞学専攻)在学中。
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