安倍首相の「読売熟読して」発言は癒着ぶりの極み
2017年5月10日 上出 義樹
国会答弁の中で読売との親密な関係を露呈
こういうのを、贔屓(ひいき)の引き倒しと言うのだろう。自衛隊を合憲とする改憲方針を示した安倍晋三首相が5月8日の衆院予算委員会で、野党議員から改憲案の真意を問われた際、質問にはまともに答えず、自身のインタビューが掲載された「読売新聞を熟読してほしい」と発言し、同紙との親密な関係を自ら露呈したことである。
憲法記念日に新たな改憲方針を表明
安倍首相は、3日の憲法記念日に開かれた日本会議系の改憲集会へのビデオメッセージや、同日付の読売のインタビューで、憲法9条の1項と2項は残したまま新たに3項を付け加え、そこで自衛隊の存在を明示する改憲を2020年に施行したいと述べている。
具体的な答弁を拒否し、代わりに「読売読め」
これに対し、8日の予算委で民進党の長妻昭氏が、「国防軍」の創設を明記した2012年の自民党改憲草案との違いなどを質問したところ、「自民党総裁」と「首相」の立場を使い分けて具体的な答弁を拒否。代わりに、「読売熟読」発言が飛び出し、野党側から「新聞を読め、などという答弁は聞いたことがない」「国会軽視だ」と猛反発を受けた。
8ページ使い首相の改憲案を後押しする翼賛紙面
その3日付読売新聞は1面から社会面まで8ページを使い、安倍首相の改憲方針を全面的に後押しする翼賛紙面。しかも、皮肉なことに、8日の国会で「(改憲方針は)自民党総裁としての考え方」と逃げを打っていた安倍首相の答弁に冷や水をかけるように、しっかり「首相インタビュー」のタイトルまで付いていた。
「権力監視」の使命はどこへ行った
読売は産経とともにもともと改憲派の代表的な新聞ではあるが、首相自身による「読売」PRで、両者の癒着ぶりをあらためて際立たせる形になった。「権力監視」のメディアの役割はどこへ置き忘れてしまったのか。ただ、この「読売熟読」発言を見出し付きで掲載した9日付の朝日、毎日、東京の在京3紙も、それぞれ2段格の比較的地味な扱い。新聞同士の手心か、あるいは安倍首相への遠慮なのか。気になる報じ方だった。
(かみで・よしき)北海道新聞社でシンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ。
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